税金マル得情報 vol.121「相続した実家を売却する前に特例の要件を確認しよう」

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1.相続して空き家となった実家の譲渡の特例とは?
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平成28年度税制改正により、相続した後に空き家となった実家を売却したときの売却益から最大3,000万円を控除できる特例が創設されました。この3,000万円の控除は1人当たりの金額ですので、例えば、兄弟が共有で相続して空き家となった実家を売却した場合には売却益から2人分で最大6,000万円も控除できるのです。ただし、3人以上が共有で相続して空き家となった実家を売却した場合には1人当たりの控除額は2,000万円が最大となります。そして、この特例を適用するための要件は、下記となります。
①昭和56年5月31日以前に建築されたこと ②マンションのような区分所有建物ではないこと ③被相続人が1人で居住していた建物であること ④相続開始の日から3年を経過する年の12月31日までに売却すること ⑤売却代金が1億円以下であること次のいずれかの方法で売却すること (a)売主が建物を引き渡すまでに耐震改修を行うか、または取り壊して更地にすること (b)売却した年の翌年2月15日までに、買主が建物の耐震改修を行うか、または取り壊すこと |
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2.老人ホームに入居していた場合
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平成31年度税制改正において、③の要件が緩和されています。それまでは、被相続人が相続開始の直前に老人ホームに入居していると「居住していた建物」とみなされず、特例の適用がありませんでした。
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これが、被相続人が要介護認定等を受けて老人ホームに入居し、かつ空き家となった実家の建物に他の親族などが居住していなければ、③の要件を満たすとされたのです。ここで老人ホームとは、グループホームや特別養護老人ホーム等の施設のことを指し、介護を受けるために親族の家に同居している場合には、③の要件を満たさないことになります。
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3.買主と特約を締結しておく
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さらに、令和5年度税制改正により、⑥の(b)の要件が追加されました。税制改正の前までは、⑥の(a)の要件だけしかなく、売主が建物を引き渡すまでに耐震改修を行うか、取り壊して更地にする方法しかありませんでした。ところが、売却できるかどうか分からない建物について、お金をかけてまで耐震改修を行う相続人は多くありません。または、建物を取り壊してしまうと更地になり、すぐに売れなければ、固定資産税が高くなることも負担となります。このことから、この特例が使いにくいと言われていました。
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そこで、⑥の(b)の要件を追加して、令和6年1月1日以降の売却に適用できることになったのです。これにより、空き家となった実家を売却した後、買主が売却した年の翌年2月15日までに建物の耐震改修または取り壊しを行えば、⑥の(b)の要件を満たすことができ、売主が特例を使えることになったのです。つまり、売主が建物の耐震改修や取り壊しを行う必要がなくなったのです。
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ところが、売主がこの特例の適用を受けようとしていることを知らない買主もおり、期限までに耐震改修または取り壊しを行わず、売主とトラブルに発展している事例が出てきています。そこで、売買契約書に買主が建物の耐震改修または取り壊しを期限までに行う特約を明記することや、特約が守られなかった場合の取り決めを事前に行うことで買主に理解してもらう必要があります。特約条項の例文については、国土交通省のホームページに公表されています。
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また、自分が売主になる場合だけではなく、空き家となった建物の買主になる場合もあるはずです。売主から特例を使いたいという要望があれば、買主として建物の耐震改修または取り壊しを購入した年の翌年2月15日までに行わなければならないのです。