税金マル得情報 vol.120「ある相続人が約束を果たさない場合、他の相続人はどうする?」

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1.ある相続人が約束を果たさない・・・
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次の事例において、2つのケースを比較します。
○被相続人:父親
○相続人:母親、子A、子B
○父親は生前から「自分が他界した後、Aがすべての財産を相続」、
「ただし、Aが同居し、母親の面倒をみる」ということを希望し、家族に伝えていた
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2.遺産分割協議書と遺言書の比較
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○遺産分割協議書の場合
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遺産分割協議書に「Aが財産をすべて相続する代わりに母親の面倒をみる」と記載されているが、
Aはいつまで経っても同居せず、母親の面倒をみない。
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○遺言書の場合
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父親は遺言を遺しており、「Aにすべての財産を相続させる代わりに母親の面倒をみる」
と書いてあったが、Aはいつまで経っても同居せず、母親の面倒をみない。
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これらの場合において、Bは「遺産分割協議書、遺言書は無かったことにする」ということができるのでしょうか?
結論を書いてしまいますが、遺産分割協議の場合は1人の相続人だけで解除することはできないが、
遺言の場合は遺言の取り消しを1人の相続人だけで家庭裁判所に請求することができる、となります。
これらは過去の裁判でも判断されていますので、根拠は末尾に記載します。
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3.税務上の論点と根拠となる判決
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このようなAに母親の面倒をみさせるという生前の父親の希望そのものがどうかとは思いますが、
Aの生活環境が相続後に相続前とは変わり、母親の面倒をみられなくなることもあり得ます。
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いずれにせよ、「遺言」でAが相続しているならば、Bは遺言の取り消しを家庭裁判所に
請求することができるのです。そういう意味でも遺言書は書いておくべきなのです。
「××をする代わりに、□□を相続させる」ということはよくある話です。
しかし、これが履行されないことはあり得ますが、このリスクに備えるためには「遺言」が有効なのです。
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もちろん、遺産分割協議も相続人の全員の合意により解除し、やり直すことはできます。
しかし、この場合は原則としてですが、贈与税の課税対象になります。
相続税を支払った後、遺産分割協議をやり直したがために、贈与税までも払うことになるのです。
遺産分割協議のやり直しそのものはできますが、この点には注意が必要です。
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以下、今回の内容の根拠となる判決です。
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○最高裁(平成元年2月9日判決) 共同相続人間において遺産分割協議が成立した場合に、相続人の一人が他の相続人に対して右協議において負担した債務を履行しないときであっても、他の相続人は民法541条によって右遺産分割協議を解除することができないと解するのが相当である。 ○仙台高裁(令和2年6月11日判決) 負担付遺贈については、催告後、相当期間内に履行がないときは、家庭裁判所に取消請求をすることが認められているところ(民法1027条)、本件遺言は、負担付きの「相続させる」旨の遺言であり、遺産分割方法の指定をしたもので遺贈とは異なるものの、その権利移転の効果は遺贈に類似するものであるし、遺言者の意思からすれば同条の類推適用を認めるべきである。 |